
式から持ち帰った箱を開けると、尾を反らせた立派な焼き鯛が一尾——に見えます。まな板にのせて包丁を入れると、赤い皮の下から現れるのは、真っ白なすり身。鯛のかたちをした、かまぼこです。富山の結婚式では、この一尾が引出物の主役を長く務めてきました。
鯛のかたちをした、切るための飾り
細工かまぼこは、色付けしたすり身を縁起物のかたちに整え、蒸し上げてつくります。定番は鯛。ほかにも鶴亀、松竹梅、富士山と、めでたい意匠がそろいます。主に婚礼の引出物として使われ、「祝儀かまぼこ」「婚礼かまぼこ」の名でも呼ばれてきました。国が郷土の伝統食をまとめた図鑑にも載る、由緒の確かな富山の味です。飾り物のように見えて、正体は食べ物。しかもただ食べるのではなく、「切る」ことに意味がある食べ物です。
切り分けて、近所に配るまでが引出物
この鯛は、床の間に飾って終わりではありません。もらった家は包丁を入れ、切り分けて、親戚や隣近所に配ります。祝いの「お裾分け」——「お福分け」とも呼ばれる風習で、一尾の鯛が何軒もの食卓に分かれて届きます。祝いは独り占めしない。かまぼこの鯛は、そのための道具立てなのです。
始まりは、本物の鯛の代用だったとされます。縁起物の鯛は、不漁や海の荒れる時期には手に入りません。その点かまぼこの鯛は、天候に左右されず、本物と違って切り分けやすく、日持ちもします。代用品の言い訳めいた利点を数えていくと、いつのまにか「配るための強み」に変わっている。この風習が長く受け継がれてきた理由は、そのあたりにありそうです。
板がないのが、富山のかまぼこ

細工かまぼこを切っていて気づくのは、木の板が付いていないことです。かまぼこと聞いて多くの人が思い浮かべる板付きは、富山では主流ではありません。富山のかまぼこは板を使わず、蒸してつくるのが一般的です。日常の食卓に並ぶのは、すり身を渦巻きに巻いた赤巻や昆布巻き。昆布巻きは、北前船で運ばれてきた昆布を板の代わりに巻いたのが始まりとされます。祝いの鯛から日々の渦巻きまで、かたちを自在に変えられるのは、板に縛られていないからです。
切り分けた鯛のひと切れを小皿にのせて、隣の家へ。細工かまぼこが運んでいるのは、魚の味というより、祝いの分け前です。かたちは鯛でも、中身は「おめでとう」なのです。