鱒寿司は一つ買って終わりにしない
富山で鱒寿司を買うなら、先に結論を言っておきます。一つで済ませず、二つ以上を食べ比べてください。鱒寿司は作り手ごとにはっきり別物で、どれをうまいと感じるかが人によって割れる食べ物だからです。最初の一つはただの土産ですが、二つ目からは自分の好みを探す遊びになります。
形は共通しています。曲げ物の丸い器に笹を敷き、酢飯の上に桜色の鱒を並べ、放射状にたたんだ笹で包んで押したもので、江戸期に献上されて評判になったと伝えられる来歴を持つ古い押し寿司です。ふたを外すと、まず折り重なった笹の緑が現れます。一枚ずつめくるたびに青い香りがふっと立ち、最後の一枚の下から、つやのある桜色の面が丸ごと現れる——この開ける手順そのものが、鱒寿司のごちそうの一部です。
見るべき観点は三つ
違いは、笹を開いたあとに現れます。食べ比べで見る観点は大きく三つあります。
- 鱒の厚み——厚切りで魚が主役のものから、薄めで飯と一体になるものまで
- 酢の効き——きりっと酸味の立つものと、まろやかに抑えたもの
- 押しの加減——ぎゅっと締まった歯ごたえと、ふんわり軽い口当たり
同じ鱒寿司の名で、この三つの組み合わせが作り手の数だけあります。駅の売店や土産物屋には複数の作り手の品が並んでいて、選ぶ段階からすでに食べ比べは始まっています。
切り方と食べる順にもコツがある
実践の手順も添えておきます。
- 切り方——笹を開いたら器のまま、ケーキのように中心から放射状に切り分ける
- 食べる順——酢の穏やかなものから先に。濃い味を先にすると次の繊細さがかすむ
- 比べ方——同じ位置の一切れ同士で。中央と端では押しの締まりが違う
一つ目を基準にして二つ目を測ってみてください。切り分けて並べると、厚み・酢・押しの違いは想像よりずっと大きく、それだけで土産が食べものの読み比べに変わります。
一つは翌朝のために
食べ比べには、続きがあります。鱒寿司は駅弁として全国に広まった、持ち歩き前提の食べ物です。買ったその場で開ける必要はありません。夜のうちに一つを切り分けて地酒と合わせ、自分の好みの方向を確かめておきます。そして翌朝、宿の台所で笹を開くために、一つ余分に買っておくのです。