
昼——彫刻と彫金の山が、石畳の坂を上がる
5月の光の中を、彫刻と彫金、漆で飾られた曳山が石畳の坂をゆっくり上がっていきます。曳き手の掛け声が通りに響き、狭い辻で車輪の向きを変えるたびに、見物の人だかりに緊張が走る。沿道で眺めていると、坂のまちで大きな山を操ること自体が、この祭りのひとつの見せ場なのだと分かってきます。
越中八尾曳山祭は、毎年5月3日に行われる八尾八幡社の春季祭礼です。曳山は町ごとに受け継がれ、彫り物や金具の意匠にそれぞれ趣向が凝らされています。昼の日差しの下では、その細工の細かさが際立ちます。近づいて見上げれば、彫刻の陰影の深さに驚くはずです。車輪のきしむ音や木の軋みまで聞こえる距離で見られるのは、道幅の狭いこのまちならではです。
夜——同じ山が、明かりの山になる
日が暮れると、曳山は無数の提灯をまとった提灯山へと姿を変えます。昼の主役だった彫刻は闇に沈み、代わりにあたたかな明かりの輪郭が浮かび上がる。同じ山が、光の変わり方ひとつでまったく別のものになり、暗くなった坂のまちを進んでいきます。提灯の明かりは家々の格子にも映り、通り全体がほのかに色づきます。昼に見た彫刻の位置を思い出しながら眺めると、同じ山とは思えないほどです。
つまりこれは、一日のうちに二つの顔を持つ祭りです。昼の細工と夜の明かり。どちらか片方だけで帰るのは、この祭りを半分しか見ていないことになります。日暮れの前後、山が提灯の明かりをまとっていく支度の時間も見どころのうちです。
八尾といえば、多くの人がおわら風の盆を思い浮かべます。けれど5月、彫刻の山が坂を上がり、夜には明かりの山になって戻ってくるのを一度見れば、こう言いたくなるはずです。9月だけが八尾ではない、と。