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おわら風の盆、9月の三日間だけ八尾が別のまちになる

ぼんぼりの灯る通りを、編笠の踊り手が流していく
ぼんぼりの灯る通りを、編笠の踊り手が流していく

8月31日、ぼんぼりが並ぶ夕方

8月31日の夕暮れ、八尾の坂道にはぼんぼりが並び、軒先では明かりの支度が進んでいます。まだ祭りの音はありません。ただ、格子の家の奥から三味線を合わせる音が漏れてくることがあります。石畳の通りを歩けば、まち全体が静かに息を整えているのが伝わってきます。翌日からの三日間、この山あいのまちは一年でいちばん違う顔を見せます。

9月1日、車が消えて音が満ちる

おわら風の盆は毎年9月1日から3日まで。日程は年によって動きません。この期間、旧町一帯は車両進入禁止になり、坂の石畳は歩く人だけの空間になります。ふだん車が通る道の真ん中を、人がゆっくり歩き、立ち止まり、また歩く。道の使われ方が変わるだけで、まちの時間の流れ方まで変わります。

日が落ちると、ぼんぼりの明かりが石畳に落ち、音の層が立ち上がります。太鼓の低い響き、三味線の刻む拍、唄の声。そのいちばん上に、胡弓の細く途切れない音が重なります。町流しに時刻表はなく、角を曲がった先で編笠の列に行き合えるかどうかは、歩いてみないとわかりません。姿より先に、遠くから音だけが届くこともあります。音のする方へ坂を上っていく——それがこの三日間の歩き方です。

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唄は「越中おわら節」、担い手は十一の町

おわらで唄われるのは「越中おわら節」です。踊り手の列に付き添うのは、地方(じかた)と呼ばれる人たち。唄い手の声に三味線と胡弓、太鼓が重なります。この唄と演奏がなければ、列は一歩も進みません。

そして、おわらはひとつではありません。担い手は旧町とその周辺の十一の町(支部)で、それぞれが自分たちの通りを、自分たちの装いで流します。浴衣や法被の色柄は町ごとに揃えられていて、どの町の流しに行き合ったかは装いを見ればわかります。同じ唄でも、町が違えば流しの表情は少しずつ違う。三日間でいくつの町のおわらに出会えるかは、歩き方しだいです。

9月4日の朝、まちが元へ戻る

三日目の夜が更けると、まちは少しずつ静けさへ戻り始めます。翌朝にはぼんぼりが外され、通りには通学や買い物の、いつもの暮らしの音が戻ってきます。あれほどの人出と音が、跡形もなく引いていく。三日間だけ現れて消える祭りだからこそ、その最中の濃さが際立ちます。

宵の人波だけを見て帰るか、人波が引いたあとの静けさまで見届けるか。夜まで居られるかどうかで、この祭りは別の祭りになります。