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富山の寿司はなぜうまいのか、答えは湾の深さにある

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答えは店ではなく、地形にある

富山の寿司はなぜうまいのか。この問いへのいちばん短い答えは、湾の形です。富山湾は、岸を離れるとすぐに深くなる急深な地形をしていて、浅場から深海までが一つの湾のなかに収まっています。

水深が違えば、棲む魚が違います。暖かい水を好む魚と、冷たい深海に棲む魚。ふつうなら別々の海へ獲りに行く顔ぶれが、この湾では同じ港に揚がります。寿司屋のネタ箱の多様さは、そのまま湾の断面図の写しなのです。

湾の背後には3,000m級の立山連峰が立ち、山の水が幾筋もの川になって注ぎ込みます。海の深みから山頂までの高低差がこれほど短い距離に収まる場所は、世界でも珍しいといわれます。山が近い海は、川の運ぶ養分でも魚を養っているのです。

港と漁場の、この近さ

もう一つの答えは距離です。急深な湾では、深い漁場が岸のすぐ近くにあります。沖まで長い時間をかけて出ていく必要がなく、獲れた魚は短時間で港へ戻ります。鮮度が落ちる前に市場へ、そして寿司屋の付け台へ。朝に揚がった魚が、その日の夜には皿に載る距離感です。うまさの半分は、この近さでできています。

季節ごとに、別の湾を食べる

多様な魚が集まる湾では、付け台の主役が季節で入れ替わります。春の主役は、産卵のために沿岸へ寄ってくるホタルイカと、淡い桜色をした白えびです。白えびの漁は春に始まり、小さな身を集めた軍艦やにぎりが透きとおった甘みを載せてきます。ホタルイカのぷりっとした一貫は、湾に春が来たことの知らせです。

秋、深い海から紅ズワイガニが揚がるようになると、湾は冬支度に入ります。そして冬の主役は寒ブリ。海が荒れはじめる季節にたっぷり脂を蓄え、腹側のひと切れは口のなかでほどけていきます。同じ店の同じ席に座っても、季節が変われば別の湾を食べることになるのです。

最後の一貫のあとのこと

富山の寿司には、同じ水系の水で仕込まれた地酒がよく合います。ただ、車で来ていれば杯は持てません。帰りの電車の時刻を気にしはじめれば、最後の一貫は慌ただしくなります。

湾の深さと港の近さが積み上げてくれたうまさを、最後まで受け取りきる方法は一つ。いちばんの贅沢は、食べ終えてから布団まで歩ける距離です。