
町家の中は、なぜあんなに奥へ続くのか。玄関から見通せない廊下、いくつも連なる部屋、突き当たりにようやく見える小さな庭。あの細長さは偶然でも不便の産物でもなく、まちで商い、暮らすための、よく練られた答えです。
間口は商いの一等地だから狭くていい
町家の敷地は、通りに面した間口が狭く、奥へ深く延びています。通りに面した一列は店、その奥に住まいと納戸が続く。人が行き交う通りの間口は商いの一等地で、そこを広く独り占めするより、狭く分け合って軒を連ねるほうが、まち全体の理にかなっていました。間口の広さに応じて税がかけられた名残ともいわれます。
その細長い敷地を、表から裏まで一本で貫くのが通り土間です。土足のまま奥へ通り抜けられる土間は、通路であり、台所などの働く場でもありました。奥に長い家の、いわば背骨です。土間に立つと、表の戸口から裏手へ、風が一本の線になって抜けていくのが分かります。まちなかの夏に、この風の道は何よりの涼でした。

坪庭は奥の闇に光を落とす装置
細長い家の弱点は、中ほどに光と風が届かないことです。その答えが坪庭でした。家の途中に小さな庭を開けると、そこから光が落ち、風は通り土間を抜けて表と裏をつなぎます。部屋から眺める景色としての庭である前に、採光と通風の装置なのです。雨の日には、坪庭に落ちる雨音だけが家の奥まで届きます。
だから町家では、廊下の暗さにも、突き当たりの明るさにも意味があります。暗い土間を進んだ先で坪庭の光に出会うと、この家が光をどう配ったのかが、歩いた歩幅の分だけ分かってきます。
間取りは図面で読むより、一晩住むほうが早い。夜に土間の冷たさを素足の裏に感じ、朝に坪庭の光で目を覚ませば、細長さの理由は説明抜きで腑に落ちます。
