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ホタルイカの身投げ、新月の富山湾が青く光る

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波打ちぎわが青く光る夜

春の深夜、月のない富山湾の浜。寄せた波が引いたあとの砂の上に、青白い光の粒が点々と残ることがあります。近づくと、それは小さなイカです。暗さに目が慣れてくると、波の線そのものが淡く発光して見える夜もあります。ホタルイカの「身投げ」と呼ばれる現象です。

ホタルイカはふだん深い海にすみ、春になると産卵のために富山湾の沿岸へ群れで押し寄せます。まとまった群れがこれほど岸の近くまで来る海は世界でも数少ないとされ、滑川のあたりの海は特によく知られています。新月前後の暗い夜、岸に寄った群れの一部が波で浜に打ち上げられることがあり、これが身投げです。ただし、いつどこで起きるかは海まかせで、見られる保証はどこにもありません。風向き、月明かり、群れの寄り具合。条件のそろった夜だけ、浜は青く光ります。

浜で会えなくても、食卓で会える

空振りに終わっても、春の富山ではホタルイカが食卓で待っています。定番はさっとゆでたボイルで、酢味噌を添えて丸ごと口に入れると、ぷりっとした身の中からわたの濃い旨みがあふれます。もう一つの顔が沖漬けです。醤油だれに漬け込んだ一杯は、箸でつまむと照りと重みがあり、地酒のすすむ肴になります。海で光る姿と、皿の上の濃い味。同じ小さなイカの二つの顔です。

深夜の浜へ出られる自由

身投げが起きるのは深夜から未明にかけてで、日帰りの旅では届かない時間帯です。しかも出かけたところで、空振りに終わる夜のほうが多いでしょう。それでも浜へ出てみるかどうか——決め手になるのは、翌日の予定です。何も起きなければ、暗い春の海を眺めて戻ればいいのです。それができるのは、朝の予定に追われていない人だけ。深夜の浜は、翌朝を気にしない人のための場所です。