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氷見の寒ブリ、脂が乗るのは海が荒れる季節

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雷が鳴ると、漁が始まる

初冬の氷見では、空が鉛色に沈み、海鳴りとともに雷が轟く日が増えます。横なぐりの霰が過ぎたあと、港の空気がぴんと張りつめます。この時期の雷を、土地の人は「鰤起こし」と呼びます。日本海が荒れ始めるころ、脂を蓄えたブリの群れが富山湾へ入ってくるからです。海がいちばん機嫌の悪い季節と、この魚のいちばんよい季節が、ちょうど重なっているのです。

氷見のブリ漁は、定置網が中心です。回遊してくる魚の通り道に大きな網を据えて待ち、入った魚だけを獲る漁法で、群れを追いかけ回すことをしません。網は海に張られたまま、魚は自分の泳ぐ力で入ってきます。追われていないぶん魚体への傷やいたみが少なく、漁場が湾の内側にあるため港までの距離も短い——「待つ漁」であることが、そのまま鮮度の理由になっています。

海が荒れた翌朝の競り場は、この漁の答え合わせの場所です。夜明け前の暗いうちから魚が運び込まれ、床に並んだ太い魚体を、長靴の買い手たちが囲んで見定めていきます。威勢のいい声が飛び、吐く息が白く残る寒さのなか、氷見の定置網で獲れた冬のブリのうち基準を満たしたものだけが「ひみ寒ぶり」を名乗ります。冬の魚の別格として扱われる名前です。

刺身の脂と、ぶりしゃぶの脂

寒ブリの脂は、食べ方で別の顔を見せます。刺身なら、腹側のひと切れは口に入れた瞬間から溶け始め、醤油をはじくほどの脂が舌に残ります。背側は打って変わってきりっと締まり、同じ一尾とは思えない対比があります。

ぶりしゃぶでは、その脂がほどける瞬間を目で見られます。薄切りの身を昆布だしにくぐらせると、桜色がふっと淡く変わり、表面の脂が湯のなかへ広がっていきます。引き上げる頃合いを自分の箸で決めるのが、この鍋の楽しみです。冷たい刺身と温かいしゃぶ。どちらも同じ寒ブリなのに、口の中で起こることはまるで違います。

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旬は待ってくれない

寒ブリの季節は冬のひとときに限られ、その山場はその年の海次第でずれます。鰤起こしの雷は、人の予定とは関係なく鳴ります。だから氷見の冬をねらうなら、考え方を逆にしたほうがいいのです。旬は日程を待ってくれません。旅の日程のほうを、旬に合わせるのです。