通りに木槌の音がこぼれる
コン、コン、と乾いた音が石畳の通りに響いています。音のするほうへ目をやると、戸を開け放した工房で、職人が木槌でノミの尻を打っている。南砺市井波の八日町通りでは、この音が一日じゅう、まちの背景に流れています。
音は一つではありません。硬く高い音、湿った低い音。彫っている木と刃の入り方で、音色が少しずつ違います。立ち止まって眺めていても、職人は手を止めません。戸口からは木の香りが流れ、足元には彫りくずが山になっています。仕事場がそのまま通りに開かれているまちは、全国を探してもそう多くありません。
表札も看板も、欄間も
歩き出すと、彫刻が工房の中だけのものではないことに気づきます。家々の表札が木彫り、店の看板が木彫り、そしてバス停の看板まで彫刻です。見上げれば軒下に、覗き込めば格子の奥に、彫りものが潜んでいる。探しながら歩くうちに速度は自然と落ち、視線は上下に忙しくなります。まち全体が、値札のない展示場のようです。
寺の再建が、まちの産業になった
この密度には来歴があります。井波は瑞泉寺の門前町として開け、焼失した寺を建て直す仕事のなかで、京都から招かれた彫刻師の技を地元の大工たちが受け継いだと伝えられます。寺を建て直す仕事が、そのまま彫刻のまちの始まりになったのです。
八日町通りの突き当たりに立つ瑞泉寺へ行くと、その技の行き先が分かります。山門や太子堂には精緻な彫刻がびっしりと施され、通りの工房で聞いたあの音が、何百年かけて何を積み上げてきたかを教えてくれます。
夕方、観光の人波が引いたあとも、工房の木槌はまだ鳴っています。保存されたまちなみではなく、今日も何かが彫られているまち。音のするまちは、生きています。