チューリップ畑の向こうに、雪をかぶった立山連峰が立っている。足元は色で埋まり、視線を上げれば真っ白な稜線。春の富山では、冬と春がひとつの視界に同居します。花を見るために南へ、雪を見るために北へ、と移動する必要がない。立ち位置ひとつで両方が入る、それがこの県の春です。雪の白は季節が進むほど山の上へ退いていき、入れ替わりに平野の色が日ごとに増えていきます。
残雪の白が、平野の色を際立たせる
砺波平野はチューリップの産地で、春には畑が色の帯になります。屋敷林に囲まれた家が田んぼの中に点在する散居村の風景に、花の色が差していく。背景の立山連峰にはまだ雪がたっぷり残っていて、この白があるからこそ、平野の色は濃く見えます。雪解けが進んで田に水が張られる頃には、水面に山並みが映り込む朝にも出会えます。夕方には暮れていく空の色がそのまま水面へ降りてきて、畦道を歩けば水の匂いが季節の変わり目を告げます。
夜は湾へ、ホタルイカの季節
春の富山湾は、ホタルイカの季節です。産卵のために沿岸へ寄ってくるこの小さなイカは、春の食卓の主役であると同時に、青白く光る姿でも知られています。春の夜の海辺は冷えるので、上着を一枚足して出かけると長く粘れます。昼は花と雪山、夜は光る湾。一日の中にこれだけ振れ幅のある季節は、ほかにありません。
山へ上がるなら、立山黒部アルペンルートの雪の大谷は春の開通期だけのものです。除雪でできた雪の壁の間を歩けるのは、雪国の春だけに許された道。青空の日の壁の白さは、目が慣れるまで少し時間がかかるほどです。
富山の春は、冬の名残と春の盛りをどちらも手放さない数週間です。二つの季節が同時にある県——その重なりの中を歩けるのは、一年でこの時期だけです。