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おわら風の盆はなぜ9月1日に始まるのか

屋根の連なる八尾の旧町。おわらはこのまちで唄い継がれてきた
屋根の連なる八尾の旧町。おわらはこのまちで唄い継がれてきた

答えは暦にある

なぜおわら風の盆は、毎年決まって9月1日に始まるのでしょうか。答えは暦にあります。立春から数えて210日目——「二百十日」と呼ばれる日が、ちょうど9月1日の前後にあたるのです。

二百十日は、昔から台風の来やすい風の厄日として恐れられてきました。稲が穂を垂れ、あとは刈り取りを待つばかりという時期に、一晩の強風がその年の実りを倒してしまう。農家にとって、これほど気の重い日はありません。だから各地に、風を鎮めて豊作を祈る風習が生まれました。風の神を鎮める行事は日本のあちこちにありましたが、9月の初めに三日間、まちを挙げて唄い踊り続けるかたちで今に残ったのが、八尾のおわらです。「風の盆」という名前の「風」は、この風を指しています。

『風の盆』の名を記した麻の掛け軸。風を鎮める祈りが名の由来とされる
『風の盆』の名を記した麻の掛け軸。風を鎮める祈りが名の由来とされる

祈りだったから、哀調になった

おわらは江戸期から続くと伝えられています。もとは町の人たちの素朴な唄と踊りだったものが、時代を重ねるうちに唄が磨かれ、胡弓が加わり、いまの洗練された姿に整えられていきました。けれど根にあるのは一貫して、どうか風が吹きませんように、という願いです。

そう考えると、おわらの唄と胡弓があれほど哀調を帯びている理由も見えてきます。陽気に騒ぐための音楽ではなく、自然に向かって頭を垂れる音楽だからです。編笠を深く傾け、声を張り上げず、静かに通りを流していく所作のすべてが、祈りの姿勢と地続きにあります。

9月1日という日付は、誰かの都合で決められたものではありません。収穫前のいちばん不安な三日間に、まちを挙げて風の機嫌をうかがう。祭りのさなか、坂の上で立ち止まると、谷あいのまちを渡っていく夜風を頬に感じます。唄が捧げられてきた相手は、この風です。あの哀調は、祈りの名残です。