平野が金色に変わる季節
稲刈り前の富山平野は、一年でいちばん色のいい顔をしています。見渡すかぎりの田が濃い金色に実り、風が渡るたびに穂の波がゆっくりうねります。夕方には稲の乾いた匂いが道まで漂い、その向こう、東の空には立山連峰が壁のように立ちます。田の金色と山の稜線がひとつの視界に収まる景色は、この平野が米の土地であることを何よりも雄弁に語っています。
うまさの理由は、この景色のなかにすでに写っています。山の水と、平野の気候です。立山連峰の雪解け水は伏流水となって平野を潤し、田に冷たく澄んだ水を送り込みます。そして稲が実る時期の昼夜の寒暖差が、粒に甘みを蓄えさせます。昼はたっぷり光を浴び、夜は山からの涼しい空気のなかで休む——米にとって都合のいい一日が、この平野では夏のあいだ繰り返されるのです。
コシヒカリと、富富富
作られる米の中心はコシヒカリですが、富山生まれの品種「富富富(ふふふ)」も名を知られるようになりました。夏の暑さに強く、この土地の水と気候に合わせて育てられた米です。旅先の食事でごはんがうまいと感じたら、品種の名を確かめてみてください。鱒寿司の酢飯も、昆布じめに添える白飯も、とろろ昆布のおにぎりも、富山の食卓は米が土台に敷かれています。名前をひとつ知った瞬間から、その土台が少しだけ主役に近づきます。
炊きあがりを待つ数分
富山の米のいちばんの食べ方は、結局のところ炊きたてです。ふたを開けた瞬間に立ちのぼる湯気、鼻先に届く甘い香り、つやをまとって立った粒。おかずに伸びかけた手が止まり、まず一口、何もつけずに食べたくなります。同じ米でも、炊く水が違えば味は変わります。米どころで食べる白飯は、水ごと土地のものなのです。新米の季節の富山では、炊きあがりを待つ数分がいちばんの名所です。