雪が降り積もる朝、五箇山の谷では、手を合わせたような急勾配の屋根が白く立ち上がります。同じ朝、八尾のまちでは、低い軒と細い格子が坂に沿ってどこまでも連なっている。同じ富山の、同じ雪の朝なのに、家の形はまるで違う。この違いには、はっきりした理由があります。
合掌造りは雪と養蚕が設計した
五箇山の合掌造りの急な茅葺き屋根は、まず雪への答えです。山あいの深い雪を屋根にため込まないための勾配であり、小屋組は釘を使わない木組みで、雪の重みに耐えてきました。そして急勾配が生んだ広い屋根裏は、養蚕の場として使われました。雪となりわいのふたつが、あの三角形を設計したのです。五箇山の集落は世界遺産にも登録されています。
町家は商いと間口が設計した
いっぽう八尾や岩瀬の町家は、間口が狭く奥へ深い形です。人が行き交う通りに面した間口は商いの一等地で、狭く分け合って軒を連ねるほうが理にかなっていた。まちの雪は山あいほど深くはなく、屋根の勾配より間口の使い方が家の形を決めました。隣家と壁を寄せ合って建ち並ぶから、通りには連続した家並みが生まれます。格子は、視線をやわらげながら光と風を通す、まちなかの暮らしの道具です。
二つの家は、太い梁や土間、囲炉裏といった共通の語彙も持っています。同じ雪国の木の家でありながら、置かれた場所が違うだけで、これほど違う形に組み上がりました。車で走れば、合掌造りの谷から瓦屋根の連なる坂のまちまで、同じ日のうちに見比べられる距離です。
山は雪と蚕、まちは商いと通り。気候となりわいの違いが、そのまま屋根の角度と間口の幅になりました。
家の形は、土地の履歴書です。五箇山の三角の屋根にも、八尾の細い間口にも、その土地が何と付き合ってきたかが書き込まれています。
