
9月4日の朝、祭りの気配が抜けた八尾の坂を下りて平野へ出ると、田んぼが金色になり始めています。三日間のおわら風の盆が終わった瞬間から、富山の秋は音の季節から実りの季節へと切り替わる。この県の秋には、はっきりした順番があります。刈り取りが始まると平野には稲藁の匂いが漂い、田の一枚ごとに色の濃さが違って見えます。
幕開けはおわら、続くのは新米
毎年9月1日から3日のおわら風の盆が、富山の秋の合図です。胡弓の余韻が消える頃、平野では稲刈りが進み、新米が出回り始めます。米どころのこの県では、コシヒカリに加えて、富山生まれの「富富富」という米も育てられています。炊きたての新米は、それだけで一品として成立する味です。台所のある宿なら、直売所で新米の袋を提げて帰り、宿で炊く楽しみもあります。
湾の魚も脂がのり始め、食卓は日ごとに濃くなっていきます。秋の富山は、食い気で組む旅程がいちばん正直です。
紅葉は山から里へ下りてくる
米のあとは、山の番です。黒部峡谷の谷あいを染める紅葉をはじめ、山の色は日を追って里へ下りてきます。紅葉の頃の峡谷は朝の冷え込みで空気が澄み、谷の水の色と山の色の対比がいっそう濃くなります。昼は谷の紅葉、夜は新米と秋の魚。一日の中で山と食卓を往復できるのが、この季節の組み立てやすさです。各地で曳山や獅子舞の秋祭りに行き合えたら、それは旅のよい偶然です。まちを歩いていて笛や太鼓の音が聞こえたら、音のするほうへ寄り道してみてください。
祭りで始まり、米で深まり、山の色で締まる——富山の秋には、その順番があります。そして日はどんどん短くなり、夕方の早い時刻に暮れて、夜が長い。夜が長くなるぶん、宿で過ごす時間の値打ちが上がる季節です。